ホスピタリティ実践講座・・・基礎編 つづき

 会話は双方向…TWO WAY COMMUNICATION(分かり易く和製英語で行きたい。)でなければ成り  立たないのですが、一つの質問に一つ応えて終わってしまうケースが良く見受けられます。

   会話は
    1)プレコミュニケーション
    2)メインコミュニケーション
    3)ポストコミュニケーション
の三つに分けられます。

1)  プレコミュニケーション
            お客様が来店し、お迎え、席へのご案内までを言います。
前述したように、第一印象が大事で、ゲストへの期待感をどのように造るかがポイントになります。
お客様が来店して、店内に入ってきた時に、先ず、
「こんにちは、お客様は何名様ですか(でいらっしゃいますか)?」
「禁煙席と喫煙席がございますが、どちらになさいますか?」
「お席までご案内致します。」
「今日は暑いですね、どちらからいらっしゃったのですか?」
「今日はお寒いですね、最近はインフルエンザが流行っている様子、お気をつけくださいね。」
「ところで、 今日のお連れ様はご家族ですか。」
  「そうですか、息子さんのお誕生日で・・・おめでとうございます」
   
   こんな会話が続くと思います。これがプレコミュニケーションです。本題のお食 
   事に入る前の会話のことで、相手の警戒感を解き、期待感を膨らませる事、また来
   店の目的を知る事がポイントです。
お客様は初めての来店であればあるほど、どんな店なんだろう?良いサービス受け
られるかな?色々な疑問を持ちながら入ってくるものです。そんな時に自分に向け
られた気持ちの良い笑顔と自然な会話これなら期待できるかなと思わせるのがプレ
コミュニケーションでの会話です。来店の目的については、この短い入店から着席
までの間で聞けなければ焦る必要はありません。其の後のメインコミュニケーショ 
ンでさりげなく聞ければ良いのです。

2) メインコミュニケーション
    席にお着きになり、メニューの説明、オーダーを取り、お食事が終わるまでの間
   を指します。このメインコミュニケーションが一番の見せ場になります。
   お客様は、自分を大事にしてくれるお店であることを欲し、心と心の触れ合いを求 
   めています。お店側はそれに答え、お客様を大事に思う気持ちを伝える必要があり 
   ます。

お席にご案内して、着席からお食事が終わるまでの会話、
「お荷物お預かり致しましょうか?」
「お荷物はこちらの空いているお席にお置きしますね」
「今日はお客様の為に特別なお席をご用意致しました。」
「こちらの窓側のお席につきましては、噴水越しに春には薔薇、桜、秋には楓や紅葉が綺麗で皆様に気に入って頂いております。如何ですか?」
「お子様用のお椅子、前掛けをお持ちいたしましょうか?」
「本日のディナーショーは何時から始まります。」
「今日から新しい季節メニューが始まりました。」
「本日の料理長のお勧めは何々です。」
「こちらのステーキアンドロブスターって一体何ですか?」
「こちらのメニューは前沢牛のフィレミニオン150グラムと伊豆で取れましたイセエビを蒸してメルティングバター出召し上がって頂きます。付け合わせはアメリカアイダホのガーリックポテトとクレソンがついております。」
「何か嫌いなものはございませんか?」
「こちらのメニューに合せて選びましたこのワイン如何でございますか?」
「今日は、何々様のお誕生日、おめでとうございます。私からささやかなプレゼントをしたいと思います。」
「記念に、こちらのメニューに私達従業員一同のサインとお祝いの言葉を入れて参りました。 是非記念にお持ち帰り下さい。又これはお店からのお祝いのケーキです。シェフが心をこめて作りました。」
「お写真をお撮りしましょうか?」

 書いているときりがないのでこの辺にしておきますが、いずれにしてもこのメインコミュニケーションが一番の見せ場になります。
それではメインコミュニケーションのいくつかのポイントをご紹介します。

① オーダー
  オーダーを選ぶ時はお客さまにとって一番の楽しみです。
 まず、お客様が席にお着きになり、メニューをお持ちしたら、「本日の特別メニュ 
 ー」、「料理長のお奨め」、「当店の自慢の料理」時によっては「自分のお奨め料理」
 をまずご説明します。また、調理時間がかかるものについての時前説明も必要で 
 す。お料理のできるタイミングと食事会の進行状況がうまくマッチしていないと 
 食事の終りの頃に料理が出てきたりして、全体のムードが間延びする恐れがあり 
 ます。
     お客様が料理を決めかねているようでしたら、「お決まりになりましたら、お呼 
    び下さい。」と一端引きさがり、ゆっくり決める時間を持てるようにしましょう。
    何も言わず、早く決めろとばかり、傍に立っていることは時間のロスになるだけ  
    ではなく、せかされているようで嫌なものです。
    また、お客さまにとって自分を接客してくれる従業員はお店の代表であり、お店   
    のことは何でも知っていてほしいと思っています。最低限メニューの商品知識は  
    説明できなければなりません。メニューをお渡ししたら呼ぶまで気がつかないの 
    ではなく、絶えずお客様の動きに注意していましょう。メニューをパタッと閉じ 
    たり、別のお客様と談笑を始めたり、キョロキョロ周りを見渡したり違う動きが
    見られたら、さりげなく「お決まりでございますか?」とお伺いします。
    注文を受ける時、必ず声に出して伝票に書くようにしますがこれは聞き間違いを 
    防ぐのに有効です。(もちろんオーダリングシステムを導入している店も同様 
    です。)

お客様のおっしゃることを否定したり、言い換えたりしないように注意しましょう。お客様が「ご飯」と言っているのに「ライス」と言い換えてしまうようなことが無いよう注意したいものです。
ライスで思い出しました。私の友人があるファミリーレストランに行った時のことです。彼は「ご飯大好き人間」を自称していて、何処へ行ってもご飯をたくさん食べます。その時も「ライスを大盛りで下さい。」と注文しました。「大盛りライスはありません。」とそっけなく、当たり前のように断られました。「だって、ご飯があるのだから、できるんじゃないの?」と食い下がって言うと「いやあ、メニューにありません。」「じゃ、分かりました。ライスをふたつ下さい。」
結局、持ってきた二つのライスを一つにして、空いたお皿を返しました。
ことは小さいようですが、チェーン店はマニュアルで動いており、従業員も決められたとおりに作業をしています。マニュアル通りにしているのだからこれで良いとしていた時代もありますが、今ではお客様が必ず離れてしまいます。ここにはお客様との心の触れ合い・・・ホスピタリティ・マインドが全く無いのです。
特にライスの量に関しては良く食べる人、普通の人、少食の人、日常よくあることです。最近では大盛りライスいくらと事前登録してある店もあります。パン食が多くなったといってもお客様サイドに立ったらこのような応対はできないはずですし、仮にしかたないからといってライス二つ頼んで食べきれなかった場合、無念な気持ちが残り、もう二度と来ないぞと言う気持ちにさせられます。このような時はまず、お客様の要望を如何にかなえられるかを考えて、店長に確認し、「大盛りは幾らになりますがよろしいでしょうか?」もしくは笑いながら「今回はサービスさせていただきます」と答えるべきだと思います。大げさと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、お客様を離反させるか、獲得できるかが問われているのです。

オーダーを取っているときもうひとつ注意すべきことがあります。
オーダーが複数に渡り多くなる時、この料理が誰のものか、一人でいくつも頼まれている方には食前・食後なのか提供する順を確認し、また、ご家族で来店している場合はお子様の料理を先にお出しするなど配慮が必要になります。

また、オーダーを取っている最中に、よく他のお客様から声をかけられることがあります。そんな時は「申し訳ありません。少々お待ち下さい。」「はい只今参ります。」
と笑顔で返せるようにしましょう。

いよいよ最後の確認です。
必ずしなければならないのが「オーダーの復唱」です。
オーダーを取っているときは、お客様が良く間違われたり、迷ったりなさっています。ですから、オーダーが入ってない、ダブっているなど良くあることです。
「オーダーの確認をさせていただきます。」「○○がおいくつ、××がおいくつ、△△がおいくつ以上でよろしいでしょうか?」「それでは 少々お待ち下さい。(失礼致します。)」

 ② ウォッチング
  オーダーをとったら、それで終わりではありません。
  これからが本題です。
 一般的に、接客サービスの役割は、ゲストが楽しく過ごせるようおもてなしをすることです。そのためにはオーダーを取った後ゲストから目を離してはいけないません。仮に自分の大事な人がゲストだったら、どんなに忙しくても必ず、気にかけていると思います。ゲストはいつも見ていてほしいと思っているわけではありませんが、自分が必要な時にいて欲しいし、すぐに気付いてほしいのです。
ただし、それだけでは、他の接客となんの変りもありません。他者と違う独自の個性あるサービスをするには、プレコミュニケーション、ご予約時に確認したお客様の本来の目的(お誕生や入学祝等の本日のメーンイベント)にそって自ら立ち会い、思い出づくり演出のお手伝いをしていく事が求められます。それには徹底的に相手の身になる事が求められるのです。そしてお客様に「来て良かった、良い思い出になったよ」と喜んで頂けた時が自分自身への最高の賛辞であり、この仕事をしていて本当に良かったと思える至福の時です。
そのための方法論をお教えしましょう。

 これから申し上げることは、マニュアル通りにやるなと言うことです。
この言葉は語弊があるかもしれません。マニュアルは「標準化された作業指示書」であり、基本的なことしか書いてありません。基本的なこととは、感覚で申し訳ないのですが、私たちの通常行われている接客の70%レベルしか網羅できていないということです。残りの30%のサービスをするには、マニュアルに無いさらにより高いレベルの接客をしなければならず、そのような表現をしているのです。
お客様が千人いたら千通りのサービスを、一万人いたら1万通りのサービスをしろと言うことです。お客様の思い出づくりとはそういうことなのです。思い出は人の想いにより、千差万別です。
思い出作りにはまず
a )お客様の名前
b)来店目的
c)お客様の特徴、個性、好み
                        を知ることから始まります。

 この3つはプレコミュニケーションの段階から始まっています。お客様の名前を知り、お名前でお呼びするのは全ての舞台の始まりでこれから始まる楽しい時間に対するワクワク感を醸成してくれます。そして来店目的に沿った演出をお客様の個性、好みに合わせて、いかにできるのか考えていくのです。ひとつ、楽なやり方をお教えします。ご来店する目的ですが実はいくつか代表的なものがあります。これを体系化しておけばあとは応用でできるという算段です。
例えば   ・誕生日祝い
      ・卒業祝い
      ・入学祝い
      ・入社祝い
      ・快気祝い
      ・端午の節句(桃の節句)
      ・結婚記念日
      ・母の日(父の日)
      ・バレンタインデー
      ・ホワイトデー
 これらをパターン化しておけば応用は可能です。戦略的に「上手に施設・什器を使い、お料理ドリンクに工夫し、何か思い出になるようなイベントを考える。お客様の個性、好みを知っていればよりお客様に応じたおもてなしができるのです。
今まで、接客のプロにしかできないと言われていた思い出に残る「おもてなし」を普通の人でもできるようにするどうしたらいいのか、
これは後の章でゆっくり解説します。

    ③ メニューサジェスチョン
     メニューサジェスチョンは実客単価を上げるために行うのではない。ゲストにとって美味しい、楽しい食体験をしてもらうためにするのです。

    私たちはついお奨め販売を実客単価を上げるためといってしまうことがありますが、これは結果であって、本来はゲストが気がついていない「もっと美味しい楽しい食体験」をしてもらうためにしているのです。ですから、単純に実客単価を上げる方法の一つとしてお奨め販売をするのではなく、「今の季節のお奨めはこれ、またこの料理にはこの料理が合う、このドリンクが合う」といった商品知識を身につける必要があるのです。

3) ポストコミュニケーション
   最後に席をお立ちになり、レジでご会計を済ませ、お見送りまでの会話です。
とても短い時間ですが、最後の印象で次の再来店に結びつくかどうかが決まります。
お客様への感謝の気持ちを伝え、またぜひ来て欲しい旨を伝えます。あってはならないことですが仮に、お客様が不快な思いをされていた場合でもこの時のサービスリカバリーで印象が変わってしまいます。最後の総まとめの場と考えると良いでしょう。

「料理は如何でしたでしょうか?」
「景色は楽しんで頂けましたでしょうか?」
「外は冷え込んできておりますので、気をつけてお帰り下さい。」
「来月は、クリスマスのスペシャルメニュー、とサンタクロウスがやってくると言うイベントがあります。又のご来店を是非お待ちしております。」

ポストコミュニケーションでは、今までの総括の場であり、プレコミュニケーション、メインコミュニケーションで何か失敗が有ってもここでの対応が良ければ又来ようという気にさせられます。これもある高級レストランで実際有った話です。ある会社の役員の昇進パーティを後輩達が20数名ほど集まってやってくれることになりました。当日、宴もたけなわの時にこの主賓の頭にワインをひっくり返してしまうという事件が起きたのです。当然、場は白け、大騒ぎになりました。ウエイターもマネージャーも平謝り、赤ワインがその役員の薄くなった頭髪に張り付き、白いワイシャツが赤く染まりながらも当の役員は「良いんだよ、気にしないで」と笑いながらその場をうまく収めました。これはさすが・・・
 最後にこの時のマネージャーがどんな処理をしたのか?
彼は再度部下共々丁重に誤り、クリーニングのお支払いは勿論の事パーティ代金の二十数万円全額を無料にし、「今日の思い出を台無しにして申し訳ございませんでした。皆様のお気持ちを考えると自分の日常指導のいたらなさを改めてお詫び申し上げたいと思います。皆様の貴重なお時間と思い出はいかに戻そうと思っても戻す事は出来ません。其の分私はいつか皆様がご来店して頂けた時、もっと良いサービスになっている様頑張りたいと思います。ここでお約束します。」と言いきったのです。
先ずあなただったら、全額無料にできますか?
お客様の思い出を台無しにしたなら、思い出の対価に金額が有る訳だから、けちらずに、無料にするのが正しいと判断したのです。必要以上にお待たせしてしまった、おまけに提供した料理が覚めていた、お料理に毛髪が入っていた、と言う時も例外ではありません。中途半端な対応をせずに思い出を壊してしまったのだから、「又是非ご来店下さい。其の時は一生懸命、今よりもっと良いサービスをさせて頂きます。」と言う意味を含めて対応すれば、お客様に与える印象も潔く立派に映るに違いありません。過剰な「対応はしなくても良い」という判断も成り立ちますが、このようなことは日常何度もあるわけではありませんので、これを宣伝費だと思っていただければよろしいかと思います。
この処理を聞いた、その場にいた20数名の方全員が、自らまた利用したいと言い、永遠の宣伝マンになってくれたのです。
「粗相したウエイターはどうなったのだろう?」
こんな疑問も出てきます。
相手のお客様に対して、責任者である店長そして本人の二人で謝罪するのは当たり前のことです。その時に従業員を怒ったり、責めてはいけません。当の従業員には自分を怒らず、ひたすら謝る上司の姿を見せる事が大事なのです。お客様にワインをかけてしまい、思い出を駄目にしてしまう事がこんなに大きな問題なのだと叱らずとも、本人に認識させるには十分過ぎることだと思います。本人も一生このことを忘れないでしょう。
ワインをかけられたお客様はどうでしょうか?
相手マネージャーの潔い誠意ある態度を見て、それから新たなお客様を連れて何度も行く様になったのは言うまでもありません。
以上

2015年2月1日